仙台地方裁判所 平成7年(行ウ)3号 判決 1997年2月25日
原告
角田可代子
右訴訟代理人弁護士
杉山茂雅
同
佐藤由紀子
同
土井浩之
被告
大河原労働基準監督署長
伊川廣司
右指定代理人
黒津英明
外六名
主文
一 被告が平成二年三月二九日付けで原告に対してした労働者災害補障保険法による遺族年金及び葬祭給付を支給しない旨の決定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
本件は、原告の亡夫角田信一(以下「亡信一」という。)が後記本件事故により死亡したことについて、右事故が労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)上の「通勤災害」に該当するとして、原告が被告に対して平成二年一月二四日付けでした遺族年金及び葬祭給付(以下「遺族年金等」という。)の各支給の請求に対し、被告が右事故は「通勤災害」に該当しないとして同年三月二九日付けで遺族年金等を支給しない旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたため、原告が、右事故は「通勤災害」に該当すると主張して、本件決定の取消を求めた事案である。
一 前提事実等(特に証拠等を掲げたもののほかは、当事者間に争いのない事実である。)
1 当事者等
(一) 原告は、亡信一の妻である。
(二) 亡信一は、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という。)の東北地域本社(以下「東北本社」という。)の白石電力区において、主席助役として勤務していたが、平成元年一二月二七日、後記本件事故により死亡した。
2 亡信一の通常の通勤経路
亡信一は、仙台市若林区連坊小路JRアパート一二―一三にある自宅から、宮城県白石市大鷹沢字桜田一一―一にある白石電力区まで通勤しており、その通常の通勤経路は、自宅からJR仙台駅までが自転車、仙台駅から白石駅までが電車、白石駅から勤務先までが自転車というものであった(甲二)。
3 仙台地区経営推進会の結成及び活動内容等
(一) 昭和六二年四月に日本国有鉄道が民営化される以前から東北本社管内の各地区には助役会組織が存在し、民営化に向けての意識改革を目的とした活動を行ってきたが、その一つである仙台地区の助役会組織は、平成元年三月三日、名称を仙台地区経営推進会(以下「経営推進会」という。)と変更して再結成された。
東北本社の管内には、仙台地区の他、郡山、福島、小牛田、会津若松及び山形の各地区において、名称こそ異なるが、経営推進会と同様の組織が存在した。
(二) 経営推進会の規約には、次のような各規定が存在した。(甲二)。
(1) 本会の事務局を仙台地区指導センター(仙台地区における現業機関に係る業務の指導等を行う機関。以下「指導センター」という。)に置く(第一条)。
(2) 本会は、会員相互の資質の向上と親睦を図り、管理者としての必要な経営知識の修得に努め、当社の発展に寄与することを目的とする(第二条)。
(3) 本会は、仙台地区内に在籍する現場長及び助役で組織する。ただし、管理職社員は本会の特別会員とする。特別会員は会員に準ずる。本会に、南、中、北班を置く(第三条)。
(4) 本会の目的達成のため、自主研修会の開催、他企業との合同研修会の開催、仙台地区内及び他企業との合同レクリエーションの開催等を行う(第四条)。
(5) 本会に、会長一名、副会長四名、事務局長一名、幹事一〇名、事務局員二名の役員を置く。会長は会を総括し、副会長は会長を補佐し、事務局長は会の事務の総括を行い、幹事は分担された会務を行い、事務局は会の事務を行う。各班に若干名の役員を置く(第五条)。
(6) 本会の総会は、年一回開催する。臨時に開催する必要がある場合は、随時に会長が招集する。第四条に基づく事業は、班単位を含め、年四回開催する。(第七条)。
(三) 平成元年一二月当時の経営推進会の会員数は現場長五七名及び助役三〇八名の合計三六五名であり、会長は仙台駅助役、事務局長は指導センター所長(仙台駅駅長兼務)、幹事は白石駅駅長の狩野五千夫外九名、事務局員は指導センター職員二名であった(甲二)。
(四)(1) 南班には、白石蔵王駅、白石駅、大河原駅、船岡駅、岩沼駅、長町駅、白石保線区及び白石電力区等の二三職場が所属し、その会員数は一一〇名であった。南班の班長は仙台建築区区長、副班長は長町駅駅長、幹事は岩沼信号通信区区長外二名であった。
(2) 中班には、仙台駅、仙台車掌区及び仙台保線区等の一〇職場が所属し、その会員数は一四二名であった。
(3) 北班には、東仙台駅、塩釜駅及び松島駅等の二四職場が所属し、その会員数は一一三名であった((四)全体につき、甲二)。
4 白石地区管理者会の活動状況等
平成元年当時、経営推進会の南班に属する二三職場一一〇名のうち、白石蔵王駅、白石駅、白石保線区、白石電力区及び岩沼信号通信区の五職場の現場長及び助役(以下「管理者」という。)一九名は、白石地区管理者会(以下「本件管理者会」という。)を組織していた。
5 中期経営構想「TRY ON」の策定等
平成元年一一月ころ、東北本社は、その直轄エリアの経営改善を図り、平成五年度までに黒字経営を実現することを目標として、中期経営構想「TRY ON」(以下「トライ・オン」という。)を策定し、発表した。
トライ・オンの具体的内容は必ずしも明らかではないが、東北本社発行の広報誌には、トライ・オンのスローガンとして、①時代の求めるニーズをすばやくキャッチすること、②一人一人がパワフルな想像力と行動力を発揮すること、③既成概念を打破し、大胆に挑戦することの三つが掲げられていた(甲一三)。
6 本件事故発生前の亡信一の勤務状況等
(一) 亡信一は、白石電力区の首席助役として総務を担当しており、通常は日勤(午前八時四〇分から午後五時一八分)であった。しかし、もともとは技術系の助役でもあったことから、夜間の検査業務等に就くこともあった。
(二) 亡信一は、平成元年一二月二六日の午前八時四〇分から午後六時四〇分まで勤務した後、翌二七日の午前〇時三〇分から午前七時一五分までの間、船岡駅構内での設備修繕検査作業に従事した。
(三) 亡信一は、同日の夜勤明け後は本来ならば非番であったため、一度帰宅し、出直した上で後記本件会合に参加する予定であったが、同月二五日に支給した超過勤務手当の過誤払の訂正処理をする必要が生じたため、一度帰宅する予定を取りやめ、上司である白石電力区区長伊藤庸一(以下「伊藤区長」という。)に対して、右訂正処理のために午後から勤務することを申し出た上、同月二七日午後一時から午後五時一八分までの間、白石電力区において勤務した。
(四) 同日午後五時三〇分ころ、亡信一は、後記本件会合に出席するため、伊藤区長の運転する車で職場を出た。右会合の会場は白石駅近くの飲食店「一力」であったため、伊藤区長らは、白石駅構内の敷地東側に駐車し、駐車許可を得るために保線管理室に立ち寄った。すると、白石電力区が発注し、工事の竣工検査員に区長及び首席助役が指定されていた照明設備工事が終了していたため、伊藤区長と亡信一とは、予定外ではあったが、右工事の結果を確認し、現場の要望を聴いた上、徒歩で「一力」に向かった。
7 本件事故の発生及び亡信一の死亡等
(一) 亡信一は、平成元年一二月二七日午後五時五五分ころ、「一力」に到着し、本件管理者会の会合(以下「本件会合」という。)に参加した。本件会合は、途中から懇親会に移行し、同日午後七時五〇分ころに閉会した。
(二) 本件会合終了後、亡信一は、帰宅するため、白石駅午後八時九分発の下り電車に乗って仙台駅で下車した。その後、亡信一は、自転車で自宅に向かって走行中の同日午後九時五分ころ、仙台市若林区連坊一丁目三―二の路上において、自転車とともに転倒し(この事故を以下「本件事故」という。)、仙台市立病院に搬送された。
なお、本件事故の具体的状況は必ずしも明らかではないが、東北本社は、大河原労働基準監督署に対し、「自転車のライトを点灯しようとして右足を前輪のダイナモにかけた際に、前輪のスポークが折れ、急ブレーキ状態となって転倒し、前頭部を路上に打ちつけたものと推定される。」旨報告した(甲二)。
(三) 同日午後一〇時四七分、亡信一は、本件事故を原因とする頭部外傷、脳幹部挫傷により死亡した。
8 原告による遺族年金等の支給の請求
原告は、本件事故が労災保険法七条一項二号の「通勤災害」に該当するとして、被告に対し、平成二年一月二四日付けで、遺族年金等の支給を請求した。
9 被告による不支給決定
被告は、本件事故は「通勤災害」に該当しないとして、原告に対し、同年三月二九日付けで、遺族年金等を支給しない旨の本件決定をした。
10 審査請求及び再審査請求等
(一) 原告は、本件決定を不服として、平成二年五月七日付けで、宮城労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、右審査官は、平成三年九月二日付けで、右審査請求を棄却した。
(二) 原告は、右棄却決定を不服として、労働保険審査会に対して再審査請求をしたが、右審査会は、平成七年一月三一日付けで、右再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
二 争点
本件事故は、労災保険法七条一項二号の「通勤災害」に該当するか。
【原告の主張】
1 経営推進会の活動の「業務」性
(一) JR東日本は昭和六二年四月に国鉄を分割民営化して成立した会社であるが、その成立にあたっては、徹底した経営の合理化が推進された。JR東日本は、職員に対して意識改革を求め、小集団活動を推奨した。指導センターに事務局を置く経営推進会は、右の経営合理化の一環として設立された団体であり、東北本社勤労課による社員管理のための地区助役会支援体制の一つであった。
経営推進会で実際に行われていたのは、トライ・オンにいかに取り組むかという研修会や営業収益を上げるためのイベントの企画、実行であり、経営推進会設立の実際の目的は、営業収益を上げるための活動にいかに積極的に取り組むかというテーマについて、職員、特に助役等の管理者を駆り立てることにあった。
(二) 経営推進会の自主研修会等には、仕事の都合で出席できない場合を除き、ほぼ全員が出席しており、特段の理由もなく欠席すれば、管理者としての自覚が問われ、人事考課上影響することもあった。
(三) 経営推進会は、勤務時間内に開催されることもあれば、勤務時間外に開催されることもあった。
(四) 経営推進会の具体的な活動状況等は、およそ次のとおりであった。
(1) 経営推進会の結成大会は、平成元年三月三日、東北本社の会議室で開催されたが、地区内の各現場長及び助役合計二二〇名が参加した他、来賓として、東北本社の社長、総務部長及び人事課長が参加した。
(2) 同月九日の経営推進会の役員会においては、経営推進会の活動が業務の一環であることが確認され、今後の活動は東北本社から指示することとされた。また、リーダー会議では、主体的に行動して活性化するように、各地区の活動は自主活動に任せる旨の指示が出され、その上で各地区の活動状況を把握することとされた。
(3) 同年七月五日の役員会においては、南班、中班及び北班の三班に分けることが決定され、班別活動をするための前提として、総会を開催し、会員に趣旨説明をした上で活動することが確認された。そして、同年一二月四日、総会が開催され、今後、班別活動等、一層の能力向上に取り組むことの決意表明がなされた。
(4) 東北本社からトライ・オンが出されたことから、同月八日の役員会においては、トライ・オンについての自主研修会の取組みが議題となった。そして、同月二二日の一時三〇分、経営推進会の自主研修会が、「トライ・オンができ、私達はどんなことをどう取り組まなければならないか。」や「トライ・オンの復習」をテーマとして開催された。
(5) 経営推進会の事業としては、自主研修会、他企業との合同研修会、合同レクリエーションの開催等が行われることになっているが、平成元年度には、一二回の役員会が開催された他、七月一五日午後一時から午後二時三〇分までの間に、経営状況に関する研修会(出席者は一三六名)、八月二五日午後四時から午後五時四五分までの間に、本社の係長会との交流会(出席者は役員のみ一六名)、一二月四日に、相互安全診断(午前八時三〇分から午前一二時までの間)及び安全推進総決起大会(午後三時から午後五時三〇分までの間)、平成二年一月二四日午後一時三〇分から午後四時三〇分までの間に、休日制度等の改正に関する研修会がそれぞれ開催された。
(五) 右の諸事情を総合すれば、経営推進会が東北本社の組織であり、その主催する研修会等への参加が東北本社の業務そのものであったことは明らかである。
2 本件管理者会の活動の「業務」性
(一) 右1(一)記載のような活動を行うためには、なるべく小集団によって活動することが合理的であるが、経営推進会は仙台地区全体を包括しており、大きな組織である。そのため、これを南班、中班及び北班の三班に分割し、各班の活動として取り組むことにし、各班に対する指示及び指導は、指導センターが主に行うことにした。ところが、南班は、白石蔵王駅、白石駅、大河原駅、船岡駅、槻木駅、岩沼駅、名取駅、南仙台駅、長町駅、亘理駅等東北本線と常磐線とを含む広範な範囲の職場を含んでいたため、南班全体としてまとまって活動することは困難であった。そこで、南班に属する職場のうち、地域的独自性のある白石蔵王駅、白石駅、白石保線区、白石電力区、岩沼信号通信区を一つの単位として、これを白石地区管理者会と称して活動することになった。
(二) 右1記載のとおり、経営推進会が班活動を重視し、リーダー会議においても各地区の活動は自主活動に任せる旨の指示が出された等、東北本社は経営推進会の下部組織としての管理者会の組織化を重視していたのであって、経営推進会の事務局である指導センターは、地区経営会議や地区連絡会の際に、管理者会組織を作るように口頭で指導していた。本件管理者会も、「各職場において社員の意識改革を図るための地域の組織を作るように。」との指導センター所長からの指導の下に組織されたものであった。
(三) 本件管理者会における議題は、すべて東北本社の業務に関するものであり、単なる親睦や一般的な勉強を目的としたものは存しない。
(四) 本件管理者会において決定されたイベント等については、JR東日本の施設を利用して行うことができ、対外的にJR東日本として行動することができた。本件管理者会は、いわば東北本社の業務事項に関する意思決定機関であったといえる。
(五) 後記3(二)記載のとおり、本件管理者会は、東北本社の有形無形の指示命令の下に、会合の議題を設定していた。
なお、右指示命令は書面等の具体的な形では残っていないが、これは、通常の業務とは異なり、経営推進会ルートによる指揮命令系統であるため、指示命令が明確にならないこと、及び経営推進会や管理者会の眼目が「自主性」「自発性」の発揮にあるため、上部機関からの指示命令によるものであることを隠蔽する必要があったことによるものである。
(六) 本件管理者会への出欠について、勤務及び会議等で出席できない場合には報告をすることとされていた。
(七) 本件管理者会は、午後六時から開催されることも多かったが、勤務時間内に開催されることもあった。
なお、本件会合の打合せは、平成元年一二月一一日午前一〇時から午前一一時ころまでの間、白石蔵王駅駅長室において、同駅駅長、白石駅助役、白石保線区区長及び伊藤区長の四名が出席して行われたが、単なる親睦会のために、業務時間内に、正式に各地区から代表を参加させて、駅長室という施設で打合せ会を開くことはありえない。
(八) 本件管理者会の会合は、通常は白石駅の講習室で開催されていた。
(九) 本件管理者会の活動は、地区経営会議及び地区連絡会において、各班の活動状況に含めて報告されており、東北本社における地区支援体制の事務局である人事課教育係でも、本件管理者会の活動状況を把握していた。
(一〇) 本件管理者会の活動費用については、必要に応じて、指導センター所長の決裁によって支出することとされていた。
(一一) 右の諸事情を総合すれば、本件管理者会が経営推進会の下部組織として東北本社の組織の一つであったことは明らかである。
よって、本件管理者会の活動は東北本社の業務である。
3 本件会合の「業務」性
(一) 本件会合は、トライ・オンについての研修の取組みが必要とされ、平成元年一二月二二日にトライ・オンについての経営推進会の自主研修会が開かれたのを受けて、これを管理者に徹底するため、指導センター副所長からの経営推進会各班班長に対する「仙台地区としてトライ・オンについての発表会を近く行うので、助役会で勉強しておくように。」との指示に基づいて開催されたものであった。
(二) 本件会合では、当初指導センター所長による「仙台地区の現況について」というテーマでの講演が予定されていたが、これは、本件管理者会の方から発案したものではなく、所長自らが申し出たものであり、経営推進会の事務局がある指導センター所長による仙台地区としてのトライ・オンの現況についての報告であった。また、右テーマは、指導センターの副所長から南班班長に対する「事務連絡」という形で指示されたものであった。
(三) 本件会合への出席者は本件管理者会の構成員五職場一九名のうちの五職場一三名であり、欠席者は四職場六名であったが、そのうちの五名は勤務の都合によるものであり、他の一名が風邪によるものであった。
なお、鉄道業務の性質上、常に全員が会合に出席することはそもそも不可能なのであり、欠席者が一定割合存在することは当然であるから、欠席者が存在することは、業務としての性格を失わしめるものではない。
(四) 本件会合においては、途中から懇親会が開かれているが、これは、当初指導センター所長が参加する旨連絡してきていたためであり、会場が「一力」に設定されたのもそのためであった。
右懇親会においては飲食をしながら懇談を行ったが、この時期は年末年始の特別警戒期間中であって、管理者は居場所が分かるように指示されており、かつ、酒気帯び出勤は禁止されていた。そのため、懇親会の時間は五〇分間にすぎず、会費も一人当たり二〇〇〇円であった。また、料理も簡単なものであり、酒量も、ビールで乾杯した後、日本酒を杯で少量飲んだ程度であった。
(五) 本件会合の具体的内容は、およそ次のとおりであった。
(1) 本件会合は、午後五時五五分ころ、幹事の白石蔵王駅助役の司会で開会した。そして、同駅駅長があいさつをした後、トライ・オンが策定された趣旨概要及び平成五年度の旅客収入、関連事業収入、経費見込み等についての説明を行い、社員の意識についての問題提起をした。それに続いて、各駅区から、トライ・オンについての社員への周知と取組み方等についての発表があった。
(2) 午後六時四〇分ころから、各駅区間での情報交換を行い、白石駅及び白石電力区から、東北本社の業務に関する協力依頼がなされた後、午後六時五五分ころから懇親会に移った。
(3) 懇親会は伊藤区長による年末年始の輸送安全と管理者会会員の健康を祈願しての乾杯で始まったが、右懇親会においても、日常の業務に関することが話し合われた。
このように、右乾杯後も、懇親会とは名ばかりの業務に関する会議が続いた。
(4) 午後七時四五分ころ、次回の持ち回り幹事を白石電力区と決定し、七時五〇分ころ、司会が閉会宣言をして、解散となった。
(六) 右の諸事情を総合すれば、本件会合は、忘年会を目的としたものではなく、懇親会移行後も含めて、経営推進会の下部組織としての本件管理者会の会議であったのであるから、東北本社の業務そのものである。
4 よって、本件事故は、業務である本件会合からの帰宅途中で発生したものとして、労災保険法上の「通勤災害」に該当する。
【被告の主張】
1 本件管理者会の活動の「業務」性
(一) 本件管理者会は、経営推進会の南班に属する二三職場一一〇名のうち、五職場の駅長、区長及び助役の管理者一九名が任意に構成したものであり、これと同様の団体は、南班の他の職場の九一名はもとより、中班や北班にも存在しなかった。
(二) 本件管理者会の活動は、管理者として必要な勉強や情報交換、親睦を図ることを目的として自主的に開催、運営されており、活動記録等の保存もされていなかった。
(三) 本件管理者会としての組織規約や年間スケジュール表等の作成もされていなかったし、責任者の定めもなく、幹事は持ち回りで、開催の都度、当番幹事が責任者となっていた。
(四) 本件管理者会の会合は、年に数回、随時に開催されるものであり、持ち回りの幹事が、開催の都度、開催目的及び日程等を会員に連絡しているのであって、東北本社や経営推進会の指示によって招集されているものではなかった。
なお、本件会合においては、当初指導センター所長の講演が予定されていたが、これは、右所長の方から申し出たものではなく、本件管理者会の方から要請したものであった。
(五) 本件管理者会は自主的な運営を基本としているため、その会合が午後六時ころ(慣例として午後六時開催ということで暗黙の了解ができていた。)の勤務時間外に開催された場合でも、超過勤務命令は出されず、当然に超過勤務手当等の支給もされていなかった。
(六) 本件管理者会の会合は、全員参加が前提とはなっておらず、都合のつく者が任意に参加していた。
(七) 本件管理者会の活動状況については、東北本社や経営推進会に報告することが義務付けられてはおらず、実際にも東北本社はその活動状況を把握していなかった。
(八) 右の諸事情を総合すれば、本件管理者会は、東北本社又は経営推進会からの実質的支配を受けているものとは到底いえず、あくまでも任意の自主的な親睦団体であったと解すべきである。
2 本件会合の「業務」性
当初から酒食を提供する飲食店を会場としたこと、構成員一九名中の約三分の一に当たる六名が欠席したこと、超過勤務手当等が支給されていないこと、懇親会費について会社からの助成がなかったこと、及び本件事故の翌日の平成元年一二月二八日に、伊藤区長と東北本社総務部勤労課員本郷武弘(以下「本郷勤労課員」という。)の両名が大河原労働基準監督署に来署し、応対した今野隆三第二課長(以下「今野第二課長」という。)に対して、本件会合の主たる目的は忘年会であり、冒頭に二〇分間から三〇分間位話し合った後に忘年会に入った旨話したこと等からして、本件会合は、忘年会(親睦会)を主たる目的としたものであって、そもそも業務性を有しないものであった。
3 したがって、会場を事業場施設以外の場所である飲食店「一力」とする本件会合への参加行為は、勤務先からの帰路であることを考慮しても労災保険法七条三項にいう「逸脱」又は「中断」に該当し、参加時間の長短に関係なく、本件会合終了後の帰宅行為には、就業との関連性が認められない。また、本件会合への参加行為が通常通勤の途中で行うような「日常生活上必要な行為であって、労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」(同項ただし書)に該当しないことはいうまでもない。
よって、本件事故は、通勤途中における「逸脱」又は「中断」後の災害であって、通勤遂行性の要件を充足していないから、同法上の「通勤災害」には該当しない。
第三 争点に対する判断
一 事実関係
証拠(甲一ないし四、九、一〇の1ないし6、一一、一三ないし一五、乙一、証人伊藤庸一、同狩野五千夫)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
1 経営推進会の設立及び活動状況等
(一) JR東日本は昭和六二年四月に国鉄を分割民営化して成立した会社であるが、その成立にあたっては、徹底した経営の合理化が推進された。JR東日本は、国鉄時代の上意下達の方式による仕事内容の硬直化の改善や、乗客と身近に接している多くの一般職員の声の経営への反映等を通じて、赤字の解消を図るため、職員一人一人が会社の経営を意識し、自発的、能動的にアイディアを出したり、諸行事等の実際の活動を行うという職場単位の小集団活動を強力に推奨した。
指導センターに事務局を置く経営推進会は、右の経営合理化の一環として設立された団体であり、東北本社勤労課による社員管理のための地区助役会支援体制の一つであった。
すなわち、経営推進会設立の実際の目的は、東北本社が営業収益を上げるための活動に、職員がいかに自主的、積極的に取り組むかというテーマについて、助役等の管理職を駆り立てることにあった。
なお、経営推進会は、管理職によって構成されていたので、実際に右のような活動を行うという側面と、自分たちの職場における部下の右のような活動を支援、推進するという側面の二重の性格を有していた。
(二) 経営推進会では、管理者としてのレベルアップを図るため、東北本社の経営に関する知識の修得を目的とした研修会やトライ・オンに関する研修会等が行われた他、実践的な活動として、「地域とともに」の合い言葉の下、各駅ごとの地域住民との触れ合いを図るための活動や地域の特色に応じた営業活動上の工夫を行うことが求められた。
(三) 経営推進会の自主研修会等には、仕事の都合で出席できない場合を除き、ほぼ全員が出席しており、特段の理由もなく欠席すれば、管理者としての自覚が問われ、人事考課上影響することもあった。
(四) 経営推進会は、勤務時間内に開催されることもあれば、勤務時間外に開催されることもあった。
(五) 経営推進会は自主的活動であることを建前としていたため、その自主研修会等が勤務時間外に開催された場合でも、超過勤務命令は出されず、当然に超過勤務手当等の支給もされていなかった。
(六) 東北本社は、経営推進会その他の各地区の助役会組織の活動状況については、定例のフリートーキングにおいて報告を受けていた。
(七) 経営推進会の具体的な活動状況等は、およそ次のとおりであった。
(1) 平成元年三月三日、経営推進会の結成大会が東北本社の会議室で開催され、来賓として、東北本社の社長、総務部長、人事課長及び勤労課長の四名が出席した。
(2) 同月九日、経営推進会の第一回役員会が開催され、会の活動は業務の一環であること、及び今後の活動については東北本社から指示することがそれぞれ確認された。
(3) 同年六月八日、経営推進会のリーダー会議か開催されたが、各地区の活動については、主体的な行動により活性化を図るため、自主活動に任せる旨の指示が出された。そして、その上で、各地区の活動状況を把握することとされた。
(4) 同月二八日、第二回役員会が開催された。その際、指導センター副所長から、指導センターの概要についての話があった他、東北本社の総務部長から、管理者像や助役会議についての話があった。また、その際、平成元年度の経営推進会のスケジュールを策定するとともに、まず最初に何をやるかにつき、自主研修会を開いて昭和六三年度の決算及び平成元年度経営計画の勉強をし、管理者としての力をつけること。及び同年七月一五日午後一時から、東北本社の財務部長を講師として招いて、自主研修会を開催することを決定した。
(5) 同年七月五日、第三回役員会が開催され、南班、中班及び北班の三班に分けて班編成を行うこと、及び班長は次回の役員会から会議に参加することが決定された。
(6) 同月一五日午後一時から午後二時三〇分までの間、一三六名が出席して経営推進会の第一回自主研修会が開催され、東北本社の財務部長による講演が行われた。その内容は、①昭和六三年度の経常利益について、②前期に引き続く好業績の背景について、③長期債務の一部返還と自己資本比率について、④当社を取り巻く経営環境について、⑤輸送の安全が鉄道事業の根幹であることについて、⑥経営成績の概要について、⑦財政状態の概要について、⑧資産及び負債について等であった。
(7) 同日、第四回役員会が開催され、定期的に勉強会を実施すること、及び東北本社の係長会である平成飛躍会(以下「飛躍会」という。)との交流会(以下「交流会」とう。)を開催して活性化を図ることが決定された。
(8) 同月二四日、第五回役員会が開催され、飛躍会の活動状況を聞いて参考にすること、現場管理者と係長相互の仕事のやり方の疑問点、誤解点について忌憚のない意見交換をし、そこから相互の信頼を築くこと、及び交流会を同年八月二五日午後四時から開催することが決定された。
(9) 同年八月二五日午後四時から午後五時四五分までの間、仙台第二運転所講習室において、交流会が開催され、飛躍会と経営推進会の両者から、活動状況についての報告がなされた後、フリートーキングが行われた。
(10) 同年九月二五日、第七回役員会が開催され、班別活動をするための前段階として、経営推進会の総会(以下「総会」という。)を開催し、会員に趣旨を説明した上で活動すること、同年一〇月、一六日から同月二〇日までの期間に総会及び自主研修会を行う計画を立てること、東北本社総務部長にJR東日本の現状等についての講演をしてもらうよう依頼すること、及び総会を仙台駅の講習室で行うこと等を決定した。
(11) 同年一一月一三日、第八回役員会が開催され、同年一二月四日に、東北本社の会議室において、総会を開催するとともに、経営推進会の自主活動として、東北本社の安全対策室長に事故防止の現状についての講演をしてもらうよう依頼すること及び事故防止総決起大会を開催することを決定した。
(12) 同月一七日、第九回役員会が開催され、前回の決定内容の一部を変更して、経営推進会が母体となって、地区をあげて地区内相互安全診断(以下「相互安全診断」という。)を実施し、その後に安全推進総決起大会(以下「総決起大会」という。)を開催することを決定した。
(13) 同月二〇日、第一〇回役員会が開催され、総会、相互安全診断及び総決起大会の進め方について話し合われたが、総決起大会においては、営業(駅(営業、輸送)二か所)、運輸(運転、車掌、検修(工場を含む。)三か所)及び工務(施設、電気(電力、通信)二か所)の各系統代表からの取組報告、指導センター所長のあいさつ、東北本社社長のあいさつ、並びに地区代表の決意表明等を行うことが決定された。
(14)① 同年一二月四日、午前八時三〇分から午前一二時までの間、約二五〇名が出席して相互安全診断が行われ、社員が各系統を越えて一四の班に分かれ、職場相互に安全診断を実施した。
② 同日午後二時から午後二時五〇分までの間、総会が開催された。
③ 同日午後三時から午後五時三〇分までの間、東北本社の会議室において、総決起大会が開催され、右の一四班は、右安全診断の結果を講評し合い、他人の目から見た別な観点からの安全対策について議論した。その後、各系統代表からの安全推進についての取組報告、指導センター所長のあいさつ、来賓としての東北本社社長及びJR東労組仙台支部委員長の各あいさつがなされた。最後に、参加した約二五〇名の社員は、各人が安全について自覚し、自分自身が事故を防止するという決意を表明するとともに、鉄道の安全に寄せられる社会の期待に応えることをお互いに誓い合った。
(15) 同月八日、第一二回役員会が開催され、今後の自主研修会の開催について話し合われたが、同月二二日午後一時三〇分から午後四時三〇分までの間、仙台駅講習室において、「トライ・オンができ、私達はどんなことをどう取り組まなければならないか」についての自主研修会を開催すること、及びその研修会においては、班別活動による討議方式を採用し、各班がその結果を発表することが決定された。
(16) 同月二二日午後一時三〇分から五時までの間、第二回自主研修会が開催され、指導センター副所長からトライ・オンについての講演があった後、計一一班(南班四班、中班三班、北班四班)に分かれて、トライ・オンについて、班別活動による討議及び発表が行われた。
2 本件管理者会の活動状況等について
(一) 右1(一)及び(二)記載のような活動を行うためには、なるべく小集団によって活動することが合理的であるが、経営推進会は、仙台地区全体を包括している大きな組織であった。そのため、これを南班、中班及び北班の三班に分割し、具体的な実践活動は各班において取り組むことにし、各班に対する指示及び指導は、指導センターが主に行うことにした。そして、さらに小集団活動を活発にするために、指導センター所長は、地区経営会議や地区連絡会等の中で、各班班長に対し、「意識改革を図るため、各職場において、自主的に管理者会組織を作るように。」という内容の指導を口頭により行った。
他方、南班は、白石蔵王駅、白石駅、大河原駅、船岡駅、槻木駅、岩沼駅、名取駅、南仙台駅、長町駅、亘理駅等の東北本線と常磐線を含む広範な範囲の職場を含んでいたため、南班全体としてまとまって活動することは困難であった。そこで、南班に属する各職場のうち、地域的独自性があり、地域住民とのコミュニケーションを図り、白石地区ならではのイベント等を企画、実行することが可能な白石蔵王駅、白石駅、白石保線区、白石電力区及び岩沼信号通信区の五職場が、一つの単位として集まり、白石地区管理者会と称して小集団活動を行うことになった。そのため、右五職場の経営推進会の会員がそのまま本件管理者会の会員となった。
なお、本件管理者会と同様の組織は、南班の他の職場はもとより、中班や北班にも存在しなかった。
(二) 本件管理者会の活動内容は、東北本社の経営に関する勉強会や東北本社の営業活動の一環としての対外的イベントの企画、実行等、すべて東北本社の業務に関するものであった。
(三) 本件管理者会としての組織規約や年間スケジュール表等の作成及び活動記録等の保存はなされていなかった。
(四) 本件管理者会には責任者の定めがなく、幹事は持ち回り制であった。
(五) 本件管理者会の会合は、年に数回、随時に開催されていたが、東北本社や経営推進会の個別具体的な指示によって招集されていたわけではなく、持ち回りの幹事が、開催の都度、開催目的及び日程等を会員に連絡していた。
(六) 本件管理者会への出欠については、勤務及び会議等で出席できない場合には報告することとされていた。
なお、亡信一の上司であった伊藤区長も、本件管理者会へは必ず出席しなければならないと考えており、亡信一に対しても必ず出席するように指導していた。
(七) 本件管理者会の会合には、常時会員の三分の一程度の欠席者が出ていたが、これは各職場に常時一名は助役以上の責任者が残っていなければならないことになっていたためであった。
(八) 駅長が助役に対する勤務評定をするにあたっては、本件管理者会における活動も、仕事に対する取組姿勢という面で評価の対象とされていた。
(九) 本件管理者会の会合は、現場長以外の管理者がなるべく多く出席できるように、日勤時間を外した午後六時から開催されるのが通例であったが、日勤時間内に行われることもあった。
(一〇) 本件管理者会は自主的な活動を建前としていたため、その会合が勤務時間外に開催された場合でも、超過勤務命令は出されず、当然に超過勤務手当等の支給もされていなかった。
(一一) 本件管理者会の会合や打合せ等が勤務時間中に開かれた場合には、東北本社は、業務に支障がない限り、本来の業務についての勤務を事実上免除していた。
(一二) 本件管理者会の会合は、通常は白石駅の講習室等で開催されていた。
(一三) 本件管理者会の活動状況は、指導センターの主催する地区経営会議及び地区連絡会において、経営推進会からの各班の活動状況の報告に含めて報告されており、東北本社における社員管理を職務とする総務部勤労課や地区支援体制の事務局である人事課教育係でも、本件管理者会の活動状況を把握していた。
(一四) 本件管理者会の活動費用については、必要に応じて、指導センター所長の決裁によって支出することとされていた。
(一五) 本件管理者会の開催回数は年に数回であり、本件事故前の活動実績としては、同年夏の白石夏祭りの前に、白石駅講習室で会議を開き、その会議終了後に外部で懇親会を行ったことがあった。
3 本件会合の開催理由及び具体的内容等について
(一) 平成元年一二月当時、東北本社においては、トライ・オンの周知、徹底が最重要課題とされていた。トライ・オンの内容は理念的なものを多く含んでおり、管理者たちがその内容を十分に理解することは容易ではなかったが、、管理者はトライ・オンについて一般職員に対して普及させる立場にあったため、東北本社としては、管理者のトライ・オンに対する理解を徹底させておく必要があった。そこで、指導センター副所長は、経営推進会の各班の班長に対し、「仙台地区としてトライ・オンについての発表会を近く行うので、助役会で勉強会をしておくように。」との指示をした。
本件会合は、南班班長から右指示を伝えられた本件管理者会の会員が、管理者のトライ・オンに対する理解を徹底するという右の目的を果たすために開催したものであった。
(二) 同月一一日午前一〇時から一一時ころまでの間、白石蔵王駅駅長室において、同駅駅長(幹事)、白石駅助役、白石保線区区長及び伊藤区長の四名が出席して打合せを行い、同月二七日に本件管理者会の会合を開催すること、その内容として、指導センター所長に仙台地区における現況についての講演を依頼すること、指導センター所長に講演を依頼しておいて懇親会を開かないのは礼を失するため、右講演終了後に懇親会を開催すること、右懇親会の会費は一〇〇〇円か二〇〇〇円にすること、及び右会合の場所は白石市内とし、具体的には後日幹事が決めて会員に連絡すること等を決定した。
その後、同日の本件管理者会の会合を白石駅近くの飲食店「一力」において行うことが、幹事によって決定された。これは、当日に指導センター所長による講演と懇親会が予定されていたためであった。また、右講演だけでも白石駅の講習室で行わなかったのは、その当時、白石駅の講習室には、机、いす、ロッカーその他の古い備品が部屋中一杯に積まれており、右講演の会場としては事実上使用できない状態にあったためであった。
(三) 当初は、本件会合において、指導センター所長による「仙台地区における現況について」という題のトライ・オンについての講演が行われる予定であった。ところが、都合により指導センター所長が急に出席できなくなったため、本件会合の予定を変更し、トライ・オンの一般社員への周知、徹底の取組みと理解度について、各駅区から発表することとした。
(四) 本件会合の具体的内容は、およそ次のとおりであった。
(1) 本件会合は、同月二七日午後五時五五分ころ、白石蔵王駅助役の司会で開始された。そして、幹事の同駅駅長が、あいさつをした後、トライ・オンが策定された趣旨概要及び平成五年度の旅客収入、関連事業収入、経費見込み等についての説明を行い、社員の意識についての問題提起をした。それに続いて各駅区から、トライ・オンについての社員への周知と取組み方等についての発表があった。
(2) 午後六時四〇分ころから、各駅区間での情報交換を行い、白石駅から、平成二年一月三日に同駅構内で行われる餅つき大会について、白石電力区から、安比スキーツアーについて、それぞれ協力依頼がなされた後、午後六時五五分ころから懇親会に移った。
なお、右餅つき大会は、社内レクリエーションのようなものではなく、地域住民の参加を呼びかけるものであって、東北本社の対外的行事であった。また、右スキーツアーも営業活動の一環であって、東北本社の業務そのものであった。
(3) 右懇親会は、伊藤区長による年末年始の輸送安全と本件管理者会会員の健康を祈願しての乾杯で始まり、その後、全国こけし祭り、白石市夏祭り、どんと祭、白石地区ソフトボール大会、オリエントサルーン号によるプラス10(テン)及び第一回ウオークラリー等の業務に関することが話し合われた。
なお、右プラス10(テン)は、旅行パックのような行事であり、電車を利用する業務そのものであった。また、右の全国こけし祭り、白石市夏祭り及びどんと祭については、地区JRとして参加しており、会社の地域に対するイメージアップ戦略を含んだものであった。さらに、右ウオークラリーは、やはり東北本社として実施されるものであった。
(4) 午後七時四五分ころ、次回の持ち回り幹事を白石電力区と決定し、七時五〇分ころ、司会が閉会宣言をして、解散となった。
(五) 本件会合への出席者は本件管理者会の構成員五職場一九名のうちの五職場一三名であり、欠席者は四職場六名であった。右欠席者のうちの五名は勤務の都合によるものであり、他の一名は風邪で欠勤したためであった。
(六) 右懇親会においては、オードブル、おでん、焼きそば等の簡単な食べ物の他、アルコールも、全体で、ビールが六、七本、日本酒がとっくりで五、六本程度出された。
(七) 本件会合は、勤務時間外に行われたが、超過勤務手当等は支給されなかった。
(八) 右懇親会の会費は一人当たり二〇〇〇円であったが、各自の自己負担であり、東北本社からの助成はなかった。
二 本件事故の「通勤災害」該当性について
1 一般論
労災保険法七条一項二号の「通勤災害」に該当するためには、「就業に関し」、すなわち、業務と関連性のある往復行為について、住居と「就業の場所」、すなわち、業務を開始し、又は終了した場所との間を往復する間に、災害に遭遇したことを要するところ、労災保険法の目的からすれば、右業務とは、賃金の対象となる業務よりも広く、労働者が労働契約に基づく使用者の明示、黙示の実質的支配下にあることをいうと解される。
2 本件管理者会の活動の「業務」性
(一) 前記第二の一3及び5、並びに右一1認定の各事実、特に、経営推進会が設立された経緯、仙台地区内に在籍する現場長及び助役の全員が経営推進会の会員となっていたこと、経営推進会の役員会において、経営推進会の活動が業務の一環であること及び今後の活動については東北本社から指示することがそれぞれ確認されたこと、経営推進会の活動が東北本社の経営等の業務に関するものに限られていたこと、経営推進会の役員会や自主研修会等が、勤務時間中に東北本社の会議室等において何度も行われ、それらに東北本社の幹部職員らが講師等として何度も出席していたこと、並びに経営推進会の自主研修会等には、仕事の都合で出席できない場合を除き、ほぼ全会員が出席しており、特段の理由もなく欠席すれば、管理者としての自覚が問われ、人事考課上影響することもあったこと等によれば、経営推進会は東北本社の実質的下部組織であったことが認められる。
また、前記第二の一4及び右一2認定の各事実、特に本件管理者会が組織された経緯、本件管理者会の活動が東北本社の業務に関するものに限定されていたこと、本件管理者会への出欠については、勤務及び会議等で出席できない場合には報告することとされており、亡信一の上司であった伊藤区長も、亡信一に対して、本件管理者会には必ず出席するように指導していたこと、駅長が助役に対する勤務評定をするにあたって、本件管理者会における活動も評価の対象とされていたこと、本件管理者会の会合や打合せ等が勤務時間中に行われることもあったこと、本件管理者会の会合や打合せ等が勤務時間中に開かれた場合には、東北本社は、業務に支障がない限り、本来の業務についての勤務を事実上免除していたこと、本件管理者会の会合が通常白石駅の講習室等で開催されていたこと、及び本件管理者会の活動費用については、必要に応じて、指導センター所長の決済によって支出することとされていたこと等によれば、本件管理者会は経営推進会の実質的下部組織であったことが認められる。
したがって、本件管理者会は東北本社の実質的支配下にあったと評価することができるから、本件管理者会の活動は東北本社の業務であったと解すべきである。
(二)(1) これに対し、被告は、①本件管理者会と同様の団体は、南班の他の職場はもとより、中班や北班にも存在しなかったこと、②本件管理者会の会合は、全員参加が前提とはなっておらず、都合のつく者が任意に参加していたこと、③本件管理者会の活動状況については、東北本社や経営推進会に対する報告が義務付けられておらず、東北本社もその活動状況を把握していなかったこと、④本件管理者会としての組織規約や年間スケジュール表等の作成及び活動記録等の保存がなされていなかったこと、⑤本件管理者会については、責任者の定めがなく、幹事は持ち回り制であったこと、⑥本件管理者会の会合は、東北本社や経営推進会の指示によって招集されているものではなく、持ち回りの幹事が、開催の都度、開催目的及び日程等を会員に連絡していたこと、⑦本件管理者会の会合が勤務時間外に開催された場合でも、超過勤務命令は出されず、当然に超過勤務手当等の支給もされていないこと等からして、本件管理者会は、東北本社又は経営推進会の実質的支配下にあるとは到底いえず、任意の自主的な親睦団体であるから、その活動は東北本社の業務ではない旨主張する。
(2)① しかしながら、証拠(甲一四、一五、証人伊藤、同狩野)及び弁論の全趣旨によれば、北班及び中班のうちの職員が常駐している職場については、概ね仙台駅かその近辺にあり、一同に会することがさほど困難ではないので、特に細分化の必要がなかったこと、及び南班のうちの白石地区以外の職場については、駅業務だけで現業機関がなかったり、他の職場と離れていたりしているために、本件管理者会と同様の組織を作ることができない状態であったことがそれぞれ認められるから、右(1)①の事実が存在するからといって、右(一)の判断が左右されるものではないというべきである。
② なお、右(1)①の点に関連して、被告は、本件管理者会には、白石市に近い大河原駅、船岡駅及び槻木駅等が入っておらず、逆に仙台駅に近い岩沼信号通信区が入っていること、及び岩沼信号通信区については、区長が構成員ではなく、助役一人のみが構成員であること等からして、本件管理者会は、南班の範囲が広範なために近くにある五職場を一つの単位としたものではない旨主張する。
しかしながら、証拠(甲一四、一五、証人伊藤、同狩野)及び弁論の全趣旨によれば、本件管理者会に岩沼信号通信区が加わったのは、その当時岩沼信号通信区の派出所が白石地区内にあった(当初は白石駅構内にあったが、後に白石蔵王駅構内に移った。)ためであること、及び岩沼信号通信区については、右派出所には主任以下の者しかおらず、管理者が不在であったので、区長のみが会員となっており、区長が出席できない場合には助役が代理出席していたことがそれぞれ認められるから、被告の右主張は理由がない。
(3) また、右一2(六)及び(一三)認定のとおり、本件管理者会への出欠については、勤務及び会議等で出席できない場合には報告することとされていたこと、及び本件管理者会の活動状況は、指導センター主催の地区経営会議や地区連絡会において、経営推進会からの各班の活動状況の報告に含めて報告されていたことがそれぞれ認められるから、右(1)②及び③についての被告の主張はいずれも理由がない。
(4) さらに、業務であるか否かは、実質的に使用者の支配下にあったと評価できるか否かによって判断すべきである上、右一1(一)及び(二)、並びに2(一)認定のとおり、本件管理者会は、東北本社による経営合理化策の一環としての小集団活動を実践するための組織であり、その活動も自主的、能動的に行うことが求められていたのであるから、右(1)④ないし⑦記載のような形式的な事実の有無によって即座に結論を導くことはできないというべきである。
(5) 右で検討してきたところを総合すれば、右(1)記載の被告の主張は理由がない。
3 本件会合の「業務」性及び懇親会移行後の就業関連性等
(一) 右一3認定の各事実、特に、本件会合を開催した理由、本件会合においては、東北本社の経営に直結するトライ・オンに関する説明及び発表の他、東北本社の対外的行事等についての情報交換等が行われ、東北本社の業務に関することのみが話し合われたこと、本件会合においては、当初指導センター所長によるトライ・オンについての講演が予定されていたこと、本件会合の打合せは、勤務時間中に、白石蔵王駅駅長室において、同駅駅長、白石駅助役、白石保線区長及び伊藤区長の四名が出席して行われたこと等と右2で検討してきたところとを併せ考慮すれば、本件会合は、少なくとも懇親会移行前については、東北本社の実質的支配下にあったと評価することができる。
したがって、本件会合への参加は、少なくとも懇親会移行前については、東北本社の業務であったと解すべきである。
(二) これに対し、被告は、①当初から酒食を提供する飲食店を会場としたこと、②構成員一九名中の約三分の一に当たる六名が欠席したこと、③超過勤務手当等が支給されていないこと、④懇親会費について会社からの助成がなかったこと、及び⑤本件事故の翌日の平成元年一二月二八日に、伊藤区長と本郷勤労課員の両名が、大河原労働基準監督署に来署し、応対した今野第二課長に対して、本件会合の主たる目的は忘年会であり、冒頭に二〇分から三〇分間位話し合った後に忘年会に入った旨話したこと等からして、本件会合は忘年会(懇親会)を主たる目的としたものであるから、それへの参加は東北本社の業務ではない旨主張する。
しかしながら、右一3(二)及び(五)認定のとおり、当初から酒食を提供する飲食店を会場としたのは、当日指導センター所長による講演と懇親会が予定されており、かつ、その当時、白石駅の講習室は、右講演の会場としては事実上使用できない状態にあったためであったこと、欠席者六名のうちの五名は勤務の都合によるものであり、他の一名は風邪で欠勤したためであったことがそれぞれ認められるから、右①及び②に各事実が存在したからといって、直ちに右(一)の結論が覆るものではないというべきである。
また、業務であるか否かは、実質的に使用者の支配下にあったと評価できるか否かによって判断すべきであるから、右③及び④のような形式的な事実の有無によって直ちに結論を導くべきではない。
さらに、甲第二号証中(二二頁)には右⑤に沿うような記載が存するが、その報告者とされている伊藤区長は、証人尋問においては、「本件会合の主たる目的は忘年会であるなどと話したことはないし、本郷勤労課員もそのように話したことはないと言っている。」旨証言しており、平成三年四月二六日の宮城労働者災害補償保険審査官の聴取においても、「忘年会という性格とは違っていました。」と述べたことが認められる(甲二、九二頁)。また、本郷勤労課員作成にかかる甲第三号証(申立書)にも、「主たる目的が忘年会であるとは回答していません。」との記載がある。したがって、甲第二号証中の右記載を直ちに採用するわけにはいかない。
かえって、証拠(甲一四、一五、証人伊藤、同狩野)及び弁論の全趣旨によれば、本件会合が開催された時期は、年末年始の特別警戒期間中であって、東北本社から管理者は居場所を明らかにしておくように指示されており、何かあればすぐに現場に駆けつけなければならない体制になっていたこと、そのため、忘年会は一二月上旬に行うのが通常であり、実際、白石電力区においては、平成元年度も一二月上旬に忘年会を行ったこと、本件管理者会自体の忘年会は行ったことがなかったこと、及びその当時酒気帯び出勤は禁止されていたことがそれぞれ認められるから、本件会合開催当時は、忘年会を主たる目的とする会合を開くことができるような状況にはなかったというべきである。
右の諸事情を総合すれば、本件会合は忘年会(懇親会)を主たる目的としたものではなかったと推認するのが相当である。
よって、被告の右主張は理由がない。
(三) もっとも、本件会合が懇親会に移行した後については、右一3認定の各事実、特に、アルコールを含む飲食物が提供されていること、及び乾杯が行われて一応の区切りが付けられていること等からすると、東北本社の実質的支配下にあったとまで評価できるか否か微妙なところである。
しかしながら、仮に右懇親会への参加行為自体が業務に該当しないとしても、飲食店「一力」が「就業の場所」、すなわち、業務を終了した場所であることに変わりはないのであるから、そこからの帰宅行為が「就業に関し」てのものであるといえる場合、すなわち、右懇親会への参加によって業務と帰宅行為との関連性が失われていない場合には、右帰宅の途中における本件事故は、労災保険法上の「通勤災害」に該当すると解されるところ、右一3認定の各事実、特に、懇親会移行後も主として日常の業務に関することが話し合われたこと、右懇親会の時間が約五五分間にすぎないこと、右懇親会で出された飲食物は、簡単な料理とアルコールが少量にすぎないこと、、右懇親会の費用が一人当たり二〇〇〇円にすぎないこと等を考慮すれば、右懇親会移行前の業務と右懇親会終了後の帰宅行為との間の関連性は失われていなかったと解すべきである。
したがって、本件会合からの帰宅は、「就業の場所」からの「就業に関し」てのものであったというべきである。
さらに付言すれば、仮に本件会合自体に業務性が認められないとしても、右に認定した本件会合の実態や所要時間等からすれば、白石電力区における本来の業務、あるいは白石駅構内における照明設備工事の結果の確認業務からの帰路として、なお「就業に関し」という要件は損なわれていないというべきである。
4 まとめ
以上に検討してきたところによれば、本件事故は労災保険法七条一項二号の「通勤災害」に該当すると解するのが相当である。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求は理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官石井彦壽 裁判官佐藤道明 裁判官細島秀勝)